【婚活物語。】本好きのための結婚相談所に入会してみた話(7)写真撮影編
#20 変身計画
その日は、浮き足立っていた。
婚活写真の撮影日。私は、都内の専門スタジオの近くにある美容室「Mahalo」 を訪れていた。
直感で決めたのだけれど、昨晩、美容室のInstagrmのストーリーで見た「ビフォー・アフター」が衝撃的で。「何か、変われるかもしれない」と期待いっぱい胸いっぱいといった心持ちである。
穴場っぽい、いい店を見つけてしまったかもしれない…
スタイリストのお姉さんが、「ヘアセットとメイクコースでいいですか?」「どんな感じにしましょうか?」とにっこり微笑む。
普段、美容室は千葉市の行きつけのところに、もうかれこれ1年は通っている。ここはきっともう来ない。もう会わない人たちだ。
そんな気持ちでいたからか、つい、いつもより社交的になってみようかなと思えた。店内を流れる陽気の音楽が、私をそうさせたのかもしれないけれど。
「あの…正直、そんなにメイクとか上手じゃないし慣れていなくて…
髪の毛巻くのも下手ですし…なので、いろいろ教えてもらえますか?」
今日だけ綺麗でも、お見合いで全然違ったら幻滅されるだろう。
メイクや髪のセットのポイントだけでも盗みたい。
15000円も払ったんだしそのくらい、という下心もちょっとはあるけれど、恥ずかしがらずにいろいろ教えてもらおうと思った。
苦手なことはプロに頼る。カッコつけていたら、きっとわからないことばかりだ。
「もちろんです!今日は…お出かけとかですか?」
「婚活、しようと思ってて」
気づいたら、止まらなかった。ここで止めて、笑われて、恥ずかしい思いをしたくなくて。純ちゃんに初めて打ち明けた時もそうだったけど、婚活、という言葉を発するのは、非常に緊張する。就活生がスーツを買うような気持ちで気軽に「婚活するのでおしゃれしたくて」とはなかなか言いづらい。それでも。
「私34で、もう遅いかもしれないんですけど。婚活したくて、結婚相談所に入ったんです。それで、この後写真撮りに行くんですよね。その…婚活の写真撮ってくれるスタジオがあって。そこにも婚活プランっていうのはあったんですけど、せっかくなら気分が上がる美容院がいいかなって。ネットでたまたま見つけて、ストーリーズとかも拝見して、すごくここにお任せしたいなって思ったんです。」
婚活と縁がなさそうな、というのはつまり、彼氏が絶えなそうな美人スタイリストさんに、私は永遠と婚活を始めたきっかけや、ここに期待していることを話し続ける。
「もうこのまま一人かなと思うこともあったんですけど…でも、まだあがきたい。写真一枚で何か変わるとも思えないんですが、でも、一番綺麗な状態で撮りたいと思って…。わがままで申し訳ないのですが、会ってみたいなと思わせるようなメイクや髪型になりたくて。ぜひ勉強させてもらえたら嬉しいです。」
「お任せで」という簡単な言葉は使わない。
人生の大切な時。
私の思いを聞いてほしい。私の大事な日に、少しでも寄り添ってもらえないだろうか。その一心だった。
#21 愛嬌をつくる
「佐伯様、その…変身させていただいてもいいですか?あの…私感動しちゃって。予定より1時間くらい延長させてもらうことは可能ですか?追加オプションにはなってしまうのですが…」
お姉さんが、手っ取り早くモテるなら絶対やったほうがいい!と太鼓判を押してくれたのは、「美眉スタイリング」だった。
眉は描くのも難しいし、サロン通いはお金もかかるし、と今まであまり通ってこなかった道。
性格はサバサバしているのに、眉が少し下がっているのが変かも…
とは思いながらも、とkateのペンシルでささっと描いて、終わりにしていた。
「眉が変われば結構佐伯さんの印象違うんじゃないかなって思うんですよね。会いたいと思える顔、は難しいですが、愛嬌がある顔、なら作れると思っています。」
愛嬌。
いいかも。
スタジオ予約は15時から。
まだ11時だし、余裕で間に合う。お金はこの際、惜しまずかける。
純ちゃんも「あんまりケチらないように」って言ってたな。
そうして、私はお姉さんの提案通りに、いい女になる道を歩み始めた。
「佐伯さんは、どんな人とこれまでお付き合いされていたんですか??」
「アプリやってたんですけど、なかなかいい人いなかったんですよね。
付き合っていた方は…もうだいぶ前になるのですが…。ちょっとなかなかにひどい終わり方をしまして」
「え、気になります!!!!」
恋愛トークに花がさく。ぶっちゃける。
「前に、学校の先生をしてたんです。今はもう、やめちゃったんですけどね。その時の同僚が大学時代の先輩といって、3歳上の人を紹介してくれたんです。美術展にいって、公園を散歩して、ビアガーデン行って、とアクティブなデートをしたら結構すぐに仲良くなって。相手も、同じように思ってくれたのか、その日のうちに、付き合いたいと言われたんです。久しぶりの彼氏だ〜ってかなり浮かれて、そのまま付き合い始めたんですね…。
2年くらい経って…私の28歳の誕生日の日。もしかしたらプロポーズされるかもと思って指定されたレストランに行ったんですけど、その日は、特に何もなくて。いや、メッセージプレート、とかお花、とか、想像した私が馬鹿なんですけど、誕生日のプレゼントもなくて。
帰り道に、聞いてみたんです。
「結婚したいとか、少しは思ってくれてたりする?」って。
そしたら、「結婚って本気で幸せなのかな。俺は、しなくていいかもと思ってて...」と、真顔で言われました。
どうやら、彼…結婚願望0だったんです。親が離婚したことが原因とは言っていましたが、さすがに一緒にいるうちに変わるかなと思ってて…。
この2年はなんだったんだろうと思って、自分自身が嫌になって。
彼は、フリーでイラストの仕事をしていて、しかもアニメ大好きで。できれば自分にお金を使いたい、自分のためだけに生きたいというのが根底にあったのかもしれないです。私と一緒に幸せになるというよりは、今のこの居心地の良さを継続したい、と思っているみたいでした。
色々勝手に想像していた私も悪いですが、結婚の可能性は、本当に0で変わることはない、と言われてしまうと、もうだめだと思って…
自分の誕生日の日に、そのままお別れしました。めちゃくちゃしんどかったですね…」
「えええ、2年も付き合ったのに…」
「だから、結構引きずりましたね、その後アプリ全然上手くいかないし、とかなんとかやってたら、あっという間に30になって、転職して、仕事に慣れて…とやってたら34だし…もうなんか、嫌になりました、全部」
#22 自分投資。
「でも、ここからまた、いい人見つけて、幸せになれますよ、佐伯さん。だって、一緒に話していて面白いですもん!大丈夫ですよ、きっと。」
「あ、このままメイクと眉をやっていきますね。
せっかくなので、写真撮りながらやりましょうか、後で写真見ながら再現していただけるといいかなと思います。」
お喋りヘアセット・タイムから、いよいよ、変身メイクタイムへ。
1時間はかかると言っていたけれど、あっという間で、その間もずっと高揚していた。
久しぶりに思い出した元カレ…隼人。
なんだか、当時よりだいぶ風化していて、
あの頃、泣いていた自分がかわいそうに思った。
執着するようなやつじゃなかった。結局また年下と付き合ってると聞いた。
でも、あの時は大好きだったんだよな…
髪の毛は、ゆるふわな感じで巻いてもらった。ナチュラルが好き、と伝えるとお見合いでも真似しやすいように…と前髪の巻き方を教えてくれた。
いつもはベージュばかりの私の目元は、ほのかなピンクで、なんだか可愛らしい印象になった。
極め付けの、眉。
「え、綺麗…」
自分じゃないと思えるくらいの出来栄えに、うっとりした。
「佐伯さん、似合ってます!眉の形もすっごく綺麗です!これ、うちのインスタにあげていいですか?」
恥ずかしながらも、頷いて。
そのままぼーっとしたまま、お会計をする。
お姉さんが近くに来て、「おまじないです!」とシトラスのフレグランスの香りをまとわせてくれた。
ここに来てよかった。
Mahalo…
感謝の気持ちをこれでもかと伝えて、スタジオまでの道を行く。
まだ時間があるから、ヘルシーなランチにしようかなと、スマホを取り出して…、なんとなくそのまま自撮りをした。
これからは、新しい佐伯舞で生きていきたい。
まだまだ変われる。そう思っただけで、心が軽くなった。
踏み出すこと。勇気を出すこと。自分を出すこと。
婚活で大事なのはもしかしたら、そういうところなのかもしれない。
新しい気づきに、ついつい舞い上がり、
「今日は、自分に投資する!」と少しお高めランチを自分にご馳走することにした。
ベビーリーフたっぷりのサラダに、新ジャガのスープ。焼きたてのフォッカチオ。
オリーブオイルの甘みが、私の中に優しく染み渡っていった。
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こちらは、事実を基にした完全ノンフィクションです。
登場するのは、架空の人物です。なお、記載のサービスの内容は、BOOK婚のサービスに基づいていますが、時期によっては一部変更になっている場合もございます。
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