語らせてください。「BOOK HOTEL」のスタッフがあえて「1冊」だけおすすめ本を選ぶなら...?【心の処方箋になる1冊】
「BOOK HOTEL」は本を愛する人々が集い、語らい、そして新たな一冊との出会いを楽しむことができる場所。客室にはテーマごとに選ばれた本が並び、ロビーには厳選した書籍を揃えています。
そんな「BOOK HOTEL」の魅力のひとつが、本をこよなく愛するスタッフ。ぜひみなさんにも本好きスタッフの脳内をのぞいてほしい...と思い、とある企画を打ち出すことにいたしました。
その名も…
ブックレビュー「BOOK HOTEL」スタッフがおすすめする○○の1冊
です!
この連載では、さまざまなタイプの本好きがいる「BOOK HOTEL」のスタッフがテーマごとに選んだ「おすすめの1冊」を、ただただ熱量高く好き勝手に語る!というものです。(1冊というのがミソです!)
第1回目は、スタッフReoが担当します。と言いつつ…私自身おすすめ本が多すぎるので、何度も登場するかもしれません。笑(他のスタッフとの取り合いですね。笑)
今回、私が選んだテーマは『心の処方箋になる1冊』
ということで、こちらの本をチョイスしました。
「あしたから出版社」
とても生きにくい世の中だと思う。
この冒頭の一文に、心を完全に掴まれてしまいました。
本にとって冒頭の文は「この本はこういう内容ですよ」という言わば自己紹介のようなもの。その大事な一文に、ここまで赤裸々な気持ちを綴ることに、どれだけの勇気が必要だっただろうか…と。
『あしたから出版社』は、ひとりで出版社を営む「夏葉社」の島田潤一郎さんのエッセイです。「ひとり出版社」というと、大手の出版社で実績を積んだのちに独立するようなイメージですが、島田さんは編集者の経験がないまま出版社を立ち上げました。
ではなぜ、そんな人が「ひとり出版社」をすることになったのか?
50社からお断りメールをもらう転職活動
島田さんは27歳まで小説家を目指し、執筆とアルバイトに明け暮れていました。しかし、小説家として芽が出ず、30歳ころから正社員や契約社員で働きだすものの、どれも長続きしませんでした。
その後も転職活動をしますが、なかなかうまくいかず50社から不採用の通知が届きます。
島田さんは履歴書のアピールポイントに、小説を書いてきたこと、本をたくさん読んできたことを記載しますが、そのことを評価してくれる会社なんてどこにもありませんでした。
このとき、多くの人と同じように「就職」する道を諦めたんです。
「ひとり出版社」を始めたきっかけは、就職することが叶わず、本を作るくらいしかやりたいことがなかったからなんです。
希望に満ちた選択というよりは「消去法」に近い。成功者が描く挫折からのサクセスストーリーでは感じられない、本当に惨めでやりきれなかった思いが、文章から痛いほど伝わってきます。
2500人に届けばいい、誠実な本作り
出版不況と言われていますが、実は毎日200冊以上の本がこの世に生み出されています。特に大きな出版社さんは、ヒット作を出そうと次から次へと世の中のトレンドにあわせた本を作ります。
夏葉社の場合「2500人の顔が思い浮かぶひとたちに届けばいい」という信念をもとに本を作っています。夏葉社の本のラインナップを見ると、万人が好むようなベストセラーになる作品はありません。しかし、作品の良さを分かってくれる人がいると信じ、その人たちに1冊1冊手渡しするような気持ちで、丁寧な本作りをしています。
同じような思いを抱いているひとがいる喜び
この箇所を読んでいると、まるで自分のことが書かれているように感じました。不器用に生きている自分と重なる部分があり、読んでいてたまらなかった。
けどそれと同時に、同じような思いをかかえて生きているひとがいると知れたことは、無条件で肯定されているようにも感じたんです。
心の内なんて誰にもわからないのだから、いくらでもカッコつけることはできます。しかし、島田さんは、自分の弱い部分も隠さずに見せてくれます。だからこそ、その言葉がわたしの心を強く打ちました。
「自己成長」「AI時代」こんな言葉ばかりが飛び交い、嫌気がさしたとき、『あしらから出版社』を読むと「謙虚で誠実に生きてさえすれば報われる」と、背中を押されるような気持ちになります。
最後に
これからも「BOOK HOTEL」のスタッフが選ぶ、とっておきの1冊を通して、新しい本との出会いを楽しんでもらえたら嬉しいです!本を愛する熱い思いを感じながら、ぜひ次に読む1冊のヒントを見つけてみてください。
書いたひと:Reo