【婚活物語。】本好きのための結婚相談所に入会してみた話(14)プレ交際終了編
#41 なんで私が。
通勤電車に揺られている。
昨日は結局相談所から来ていたいろんな連絡を無視して、早々に眠りについた。
現実を色々と受け止めたくなかった。
隣のおじさんの汗ばむ匂いも、学生たちが暗記シートを使ってテスト勉強をしあっているその姿も、何もかも鬱陶しく思えてくる。
また私、イライラしてる。
別に、落ち込んでいるわけじゃない。
落ち込んでいる、わけではない…
いや。そう思いたいだけ、なのかもしれない。
感情というのは厄介で、プライドが高い私には、「選ばれなかった」という経験がきっと何よりも悔しくて、それが怒りや悲しみにもつかない何か独特な感情となって私を襲っているのだと思う。
佐野さんとは、きっと先に進むことはなかった…と思う。
だから、別に気にすることなんてないのに。
認めたくないけれど、きっと私は「自分から交際終了を告げるもの」とどこかで思っていた。
こんな時にも、プライドが邪魔をするなんて、信じられないけれど悔しかった。
「錦糸町〜錦糸町〜」
勤務先の最寄りを告げるアナウンスに、やっと電車を降りられる、と安堵のため息を漏らす。
今日は全然仕事に身が入らないだろう。
BOOK婚から、その後もLINEが来ていた。
私が落ち込んでいるのでは、と配慮してくれていることが伺える。
結婚相談所での交際が終了するときは、相談所のカウンセラーを介すことになっている。トラブルを防ぐため、らしい。
お互いの連絡先を削除して、交際終了となる。直接相手に「別れましょう」的なことを言ってはいけないし、急に交際終了になったら、その後に連絡を取り合うことはない。
このシステムに、守られているものもあるし、もやもやさせられるものも、
きっとあるだろうな。
なんでダメだったんだろう。
自分が全否定された気がして、やるせなくなってくる。
そりゃあ、お互いの相性がいいかどうかと言われれば、微妙なところだったかもしれない。
でも、私だって、これからだ…って思っていたし、デートも、そこそこ盛り上がったのに。
私の態度がダメだった?
それとも…他にいい人がいたの?
その後も、今日という今日は、散々な一日だった。
嫌いな先輩の女性スタッフからのマウント攻撃が止まらない。
先輩には1歳のお子さんがいて、その子を保育園に預けて働いている。
「育児と仕事を両立している自分はどれほどすごいのか」とか、「義母との関係性が良くてこんな私は本当に恵まれている」とか、
しまいには「佐伯さんは彼氏いるんだっけ」とまで。
こちとら、あなたのように幸せではないんですよ!お金払って必死に頑張って、でもダメで、振られてるんです!!!
大声でそう叫びたかった。
なんでこんなに体型も髪型も何も拘ってないような、しかも自分のことしか考えていないおばさんに結婚できて、私には相手がいないの。
こんなふうに図太くいかなきゃダメなの。
なんの学びもないまま、そして仕事もなかなかにカオスな環境で(児童館で先週ちょっとした事故が起き、そのクレーム対応が今になってわんさか降ってきている)全く心が安らぐことのないまま、気づくと夜になっていた。
#42 親のありがたみ
仕事も婚活も、うまく行かないー。そう思ってしまうと、途端に自分を否定し始めてしまう私。
いったん婚活のことは忘れよう、と思いスマホの電源を落とそうとした瞬間、誰からか、1通のLINEが届く。
お母さんからだった。
「おばあちゃんから野菜が届いたの。舞にも渡したいんだけど」
コロナの影響もあり、2年近く会えていないおばあちゃんは、毎年この時期になると、育てた野菜をどっさりと送ってくれる。甘すぎるレタスが恋しくて、今すぐにかぶりつきたくなる。
「え!食べたい食べたい!実家寄ってから帰る!」
即レスすると
「よかった!じゃあご飯作っておくわ〜」
おぱんちゅうさぎのスタンプが踊っている。
親は偉大なり。
なんでいつもこう落ち込んでいるタイミングで、絶好の連絡をくれるんだろう。
実家からさほど離れていない場所で一人暮らしをしていることもあり、しょっちゅう遊びにはいっているものの、やはり夕飯を一緒に食べられるというのは嬉しいもので。
今日はお惣菜かな…と思っていたから、なおさら。
レタスとトマトのサラダ、具たくさん味噌汁、小松菜のおひたし、豚肉の生姜焼き、ナスの煮浸し、にんじんしりしり、ひじきと大豆の煮物。
一人じゃこんなに作れない。
いつか私もこんなふうに誰かのために料理することができるようになるのだろうか。
「ほんっとに、一人暮らししてからお母さんのありがたみが沁みるよ。
この煮物、どうやって作るの?」
母はそれには答えず、そんなことないわよ〜と笑う。
「舞、おばあちゃんと電話したんだけどね、優希くん、入籍したんだって。」
代わりにそんなことを言った。
#43 いつの日か、きっと。
優希。幼馴染の彼とは、小学生の時によく遊んだものの、中学で転校してから、すっかり疎遠になっていた。Facebookでも繋がっていないし、最近はどこで何をしているのかすら全く知らなかった。
「優希か〜、懐かしいね〜、誰と?」
「なんか看護師さんらしいわよ。公務員と看護師ね〜すごいね〜明美ちゃん安心だわ〜」
明美ちゃんというのが優希の母である。
「やっぱり、心配なもの?」
それとなく、母に聞いてみる。最近は前みたいに結婚をせかされるような発言はしなくなってきていた。だから、それに甘えて私も触れないようにしていたのだ。
「そりゃぁね、親としては結婚を見届けるまでが親のつとめって思ってしまうものよ〜そりゃあ結婚だけが全てじゃないだろうけどね。でも、一人で舞が生きていく、頼る人がいない、なんて、私安心して死ねないじゃない〜」
「まだ62歳でしょ!全然じゃん!」
「何言ってんの!今年64よ、お母さん。もうね、70が見えてきてるんだから。」
あれ、そうだったっけ。
親は確実に老いる。
そんなこと、わかっているけれど、自分の親に限ってそんなこと、と思いたかった。
確かに少し、食欲が減っているように見えなくもない。
安心させたかった。それで、言った。
「あのね、お母さん。私婚活始めたの。
結婚相談所に行ってるの。
マッチングアプリとかより安心なんだよ。独身証明書とかも必要で、
お見合いとかをね、ホテルのラウンジとかでするの。
それで…一人進んだ人がいたんだけど…昨日、断られちゃった。
でね、そう、あと3人今月会う予定なんだ。
あの…いつか言おうと思っていたんだけどね..だから、」
そこまで息継ぎをせずに伝えると、お母さんは笑っていた。
「今、流行ってるみたいね、マッチングアプリから流入する人もいるって、なんかテレビで見たわよ」
「舞はどんな人選ぶのかね〜!そんな、舞を断る人なんてほっておきなさい!お父さんがそんな人認めないわよ。
お見合いこれからする3人って、どんな人なのよ!いつなの?」
いきなり恋バナテンションで話し始めるお母さんを見ていたら、今日一日モヤモヤしていたことが、いきなり馬鹿みたいに感じられてきた。
そうだ、私全部が終わったわけじゃない。
「はぁ?結婚相談所?」とか
反対されるかもと思っていたのに、こんなにも全力で認めてくれて、少しだけ救われた気持ちになった。
ただ「お父さんにはまだ言わないで」と付け加えられたけれど。
いつか両親に、「この人と結婚するの」と紹介できる日が来るのだろうか。
いや、その日を自分で作り上げないといけない。
最後の一枚になった生姜焼きを頬張りながら、微笑む。
お母さんは私の婚活用に服を選ぶと張り切り出している。
思いがけぬ、佐伯の婚活応援隊がまた一人、増えたのであった。
*
こちらは、事実を基にした完全ノンフィクションです。
登場するのは、架空の人物です。なお、記載のサービスの内容は、BOOK婚のサービスに基づいていますが、時期によっては一部変更になっている場合もございます。
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