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【連載】仕事おわりに「おつかれさま」が聞こえる夜。(婚活物語vol.11)

40歳、180センチ超えの佐野さんとのお見合いを終えた佐伯舞34歳。優しく、穏やかで、今までにない大人な雰囲気に、彼女は少しずつ味わったことのない感情を抱き始めていた。

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#31 お見合いを終えて

佐野さんとのお見合いを終えた私は、なんとなくどこかふわふわとしていた。もっといい形容詞があるかもしれないけれど。とにかくどこか上の空というか。このままじゃダメ。冷静な自分に戻るために、とある儀式をとり行う。
とは言っても、スタバに行って、ソイラテを注文し、スケジュール帳に今の思いを書きなぐる…というたったそれだけのことなのだけれども。私は気持ちがぐちゃぐちゃしたら、ひとまずスタバに行って書く、ということを続けている。お気に入りの手帳ももうこれで3冊目だ。

「お見合いが終わったら、アプリに報告をお願いします。迷ったらGOですが、もちろん別途ご相談くださいね!」

スタッフさんにそんなふうに言われていたことを思い出す。アプリでお見合いの報告。今の思いを書き連ねた文字たちをそのままに送信する。

「佐野さん最高だったかもしれないです。見送りまでしてくれました。とても紳士で、背が高くて。こんな人いるんだって。しかも私お見合い前に、無印で見かけていたんです。びっくりしました。でも、なんだか、疲れもありまして。なんかふわふわもしていて。この気持ちがなんなのか、どうしていきたいのか、よくわからないし、相手からどう思われているかもわからないのです。」

黄緑色の「SoyMilk」のシールを剥がして貼って、を繰り返しながら遊んでいると、そこに、びっくりマークたっぷりの返信が届いた。この感じはまさしくmoonさんだ。文字の上からも、伝わってくる明るさに微笑んでしまう。

「おおぉぉ〜〜!!!!お疲れ様でしたーー!!まずは初お見合い!頑張りましたね!楽しめたようでよかったです!!」
「これからどうしたいか、、それは、また会いたいなと思うかどうか、を基準にしてみていいと思います。どうでしょう…!」

そうか。何か腑に落ちる部分があった。私がこんなにも疲れているのは、だいぶ「頑張った」からなんだろうな。

私…、頑張ったんだな。よく見せようとしすぎたのかもしれない。

なんとなく、1時間くらいでふわふわしている自分が嫌になったけど、全く知らない初対面の人と話したんだもん。そりゃあ疲れも溜まる。

「すごく疲れました、でもいい疲れです。あの。会いたいです!ぜひまたお話したいなと思いました。」

素直な私は自分の思いを吐露して…それから、アプリ上で、佐野さんへのお見合いの印象を記載した。「常に気配りをしてくださって嬉しかったです。ぜひ交際を希望したいです。」と。

スタッフさんが相手の相談所に繋いでくれ、返事を待つという流れになるらしい。

moonさんは

「いい意味で、期待しつつ、期待しすぎず、待っていてほしいです。」と言われた。

恋愛も婚活もタイミング。
やってみないとわかんないし、ダメでも落ち込まずに前向こう!系の話は耳タコだけれども、その度に言われないと、きっと忘れてしまうから。
何度も言われるのはありがたい。

#33 届いた、結果

そうは言っても、ここまで連呼されるということは、ここで意気消沈になってしまってどうしようもなくなってしまう人もいるのだろうな、ということも見えてくる。

でも私は、なんとなくイケる気がしてる。
このソイラテも、さっき一緒に飲んだコーヒーも、あんみつも。全部全部、とっても美味しかったから。

最後に、「またぜひ!」って佐野さんが言ってくれて、その微笑みには絶対嘘がないだろうなと思えたから。

だからきっと。

お見合いのお返事は、翌日のお昼までにする決まりだそうなので、佐野さんが迷っている場合、返事は明日になるだろう。

結果が出るまではなんだかソワソワして落ち着かない。定期テストで、多分いい点は取れているだろうけどもしかしたら解答欄ずれてるかもしれないし…みたいな、自信はあるけど、保険をかけておきたいし..みたいなそんな気持ち。

「選んで、もらえるかな」

他に行くあてもなく、電車に乗る。
と同時に、見覚えのあるアイコンから通知が来る。

家に帰るまで開かないぞ、と一瞬した決心は脆く、やはり気になりすぎて
一旦下車した。

電車の中で見てもよかったのだけれども。このドキドキを鮮度高く味わいたかったから。

そこには、スタッフさんからのこんなメッセージが届いていた。

「佐伯さん。佐野さんが交際希望されているみたいですよ!!おめでとうございます。お見合いの感想が届いています。

本や映画の話で盛り上がり、もっと話したいなと思いました。
謙虚で優しく、一緒にいて初対面と思えないほど安心しました。
お土産までいただいてしまい、びっくりしましたが、ものすごく嬉しかったです。

とのことです。この後はプレ交際というステータスに進みます!
ぜひ楽しまれてくださいね。」

期待を上回るメッセージだった。フィードバックまでもらえるんだ。しかもとっても好印象じゃん。幸せを噛み締めながら微笑む。

マスクの下でニヤニヤしている私。

「選ばれ、ちゃった」

帰宅して早々、スタッフさんにお礼のLINEを送り、今後の流れを聞いた。
どうやら、今夜21時に電話が来る手はずになっているようだ。

これは「ファーストコール」といい、IBJのルールなのだとか。なんだか照れるけど、制度のせいにして電話できるのは、ちょっと嬉しいかも。

少し舞い上がって。でもちょっと不安で、急に純ちゃんの言葉が聞きたくなってLINEした。

「純ちゃん聞いて!40歳の人とお見合いして、プレ交際進むことになった!どうしよう!!!」

即既読になった純ちゃんからの返事は6文字。
「電話します!」

お互いの進捗について話しながら、気づいたらあっという間に2時間が経過していた。

#34 それでも。

婚活中に持つべきもの、それはズバリ。ズバズバ言い合える戦友である。

正直、既婚者の友達に相談するのはなんだか気がひけて、最近はあまりLINEをしなくなっている。
Twitterでの婚活の情報収集も、やめた。意図せずとられるマウントは、時に残酷だから。優しげなアドバイスのつもりでも、ズドンと放たれた矢はなかなか抜けない。

とは言え、だからと言っていくら婚活の先輩とはいえ、全ての意見に納得できるわけではない。

純ちゃんからは
「いいかもですけど、もっと合う人がいる気がします」とか、
「年の差は3歳くらいがちょうどいいって言いますし、どうなんでしょうかね」とか言われてしまった。

純ちゃんの相談所では、基本的に、お見合い後にかなり点数づけをして、そこから進むかどうかを吟味するらしい。土曜日に2、3件同時にお見合いをすることもザラなんだとか。

相談所に即レスしたことを少し後悔する。
この後気持ちが冷めてしまったらどうしよう、これからうまく進んでいけるのかな。
心がざわつき始める。


それでも、裏切られないことだって。ある。
自分が正しいことだって、あるんだ。


21時になった途端に携帯が鳴る。

時間にきっちりした人だなとやはり嬉しくなる。

「今日はありがとうございました。進めるだろうなと思いながらも不安もあったので、今すごく嬉しいです。」

佐野さんは、いつだって謙虚だなと思う。
手土産の感想もいただいて、なんだか飛び上がってしまいそうな位、嬉しかった。気づいたら1時間経っていた。

大人の恋は単純ではないから、とんとん拍子にうまく行くことなんてないとは思う。

純ちゃんの言うように、他の男性と比較しないと見えないことだってあるだろう。佐野さんは他にも相手がいてみんなに同じことを言っていることだって考えられる。

それでも。

次の日の夜も、そのまた次の日の夜もLINEが来て。
「今日もお仕事、お疲れ様でした!」
と言う言葉とともに、毎日違うスタンプが送られてきて、それが可愛くて。

話題を膨らます方法を、ただひたすらに考えていた。


余談だけれど。
プレ交際が成立して教えてもらったのは、連絡先だけではなかった。
そう。フルネーム。

佐野さんは、

佐野祐輔さんと、いうらしい。


(続く)

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こちらは、事実を基にした完全ノンフィクションです。
登場するのは、架空の人物です。なお、記載のサービスの内容は、BOOK婚のサービスに基づいていますが、時期によっては一部変更になっている場合もございます。
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