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2週間でホテルを開業させた話。【エピソード 0】

大丈夫。いつだって、あなたは、一人じゃない。変化を起こす時にはパワーがいるし、驚くほどの失敗もする。でも、それも含めて、全部自分の糧となり、未来につながるエネルギーとなる。

今では、そう思う。心から、そう思う。

それでも、私は、あの頃、苦しさに飲み込まれてばかりいた。

自分のことも、周りのみんなのことも、信じられない。自信が持てない。そんな、暗闇の中にいた。

落ち込んでばかりいては、ダメー。

わかってはいる。うまくいかないイライラも、放り投げたくなるようなモヤモヤも、どうにかして乗り越えないと、ダメだ。

果てしなく先の見えないこの世界で、正解を求めずにがむしゃらに闘ってみるしかないのだと。 

新しい扉を開けると、そこには希望がある。けれど、すぐにはその光に気付けない。渦中にいるときに、自分を俯瞰して眺めることなど、到底できない。

人は悩んで、学んで、何度でももがいてもがいて苦しんで、そうやって、少しずつ大人になっていくんだと、何度目かのカレーを食しながら、そう思った。

支配人になりませんか。

よく晴れた土曜の昼下がり。ドリップコーヒーは90℃のお湯を使ってゆっくり淹れるといいらしい。オリジナルソングを口ずさみながら、陽気な私を落ち着かせるようにたなびく、豆の香り。嬉しそうになびく洗濯物。

どんな人に優しくできそうな、尊すぎる時間を堪能していたとき、私のもとに、一通のダイレクトメールが届いた。

これが、全ての始まりだった。

「moonさま、神保町にオープンするブックホテルの支配人を探しています。もしよろしければ」オンライン面接の提案が続く。

「しはいにん」

その5文字を頭の中で反芻し、「まっさかー!」と1人で爆笑してしまう。なんとなく嬉しくなって、画面をスクショ。何かのネタにしよう。こうやって、人に語るエピソードをためておくのが、私の数少ない趣味の一つでもある。

「100万円が当選しました」とか「佐藤健です。飲みに行きましょう!」とか、どうやったって信じられないような迷惑メールがたまに届く。今回もその類だろう、と半分くらい読んだところで、放置した。

副業の仕事が溜まっているのだ。休みとて、何もしないわけにはいかない。おしゃれさだけで購入して、全く使いこなせないMacをカタカタと鳴らす。

書くこと、そう、2020年から始めたライターの仕事は、私にとって天職になり始めている。「書くことで食べていくこと」ができたならば、どんなに幸せだろうと思いながら、必死に食らいついている日々。
でも、そんなのは、夢のまた夢だ。


一口、珈琲を飲んで、ふと考える。
「でも。でも、もしかしたら、そう遠くはないのかもしれない」

なんだか今日は、執筆が進まない。「支配人」とは、なんなんだろう。なぜ私だったんだろう。何をする仕事なのだろうー。
きちんと私の本名もあっていたし、文面も丁寧だった。まんざら、間違いメールというわけではないのかもしれない。


「ブックホテル」「支配人」など心躍るワードたちが、私の頭の中で、煌めきだす。

「もしかしたら、これはチャンスかもよ?」
「そうだよ、そうだよ!このままスルーなんてもったいなさすぎ!」
「いやいや、いけるっしょ!やってみてよ楽しそう!」

一度はじまった脳内の暴走は、もう止められない。自分の中にいる、
「面白いこと大好きスイッチ」が押されてしまうと、それを試すまでは彼らは穏やかになってくれない。

「わかったよ、話、聞くだけね。」
誰に言うわけでもなく、つぶやく。一筋の期待を込めながら、文を紡いでいく。

「メールが送信されました。」
その文字が、Macの中で軽やかに踊っていた。


(エピソード1に続く。)
 

*プチコラム*

BOOK  HOTEL  神保町はもうすぐグランドOPENを迎えます。その時に、何か今までを振り返るようなことができないか、ずっと考えていました。そこで、勝手に「私小説風エッセイ」を連載してみることに。これは、BOOK HOTEL 神保町の創設物語です。「本当に2週間でOPENしたの?」と思う方。ええ。本当です。少々気が狂いそうになりながらも、必死だったあの時の全て。当時のメモや日記を参考に、少しずつ思い出しながら綴っていこうと思います。多少の脚色はあるかと思いますが、ほとんど実話。一つのコンテンツとして、読み物として、ぜひ楽しんでいただければ嬉しいです。更新は、私の気まぐれ。どうか気長に見守っていてください。ちなみに、最近私がハマっているのは、みんな大好き『SPY×FAMILIY』。先が気になって気になって仕事になりません。私も、そんなふうに「続き、早く書いて!」と言われるような作家になるべく、精進します。それではまた次回に。

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