歩みを、とめない。
たくさんのやりたいことがあって、どうしても叶えてみたいことがあって、でも霧がかかったみたいに、それは、はっきりとは見えなくて。何かを見つけるために、何かを掴むために、必死に歩いてきた。
何度迷い道したかわからないし、何度落ち込んだかわからないし、今でも正しい決断ができているのかは‥やっぱりわからないけれど。それでも、私は立ち止まらずに、進む。進めば進んだだけ、何かしらの線を引くことができると思っている。だから、「どんな経験すらも糧にしてやる」と今、これを書きながらも思っている。
お客様や、取材の対応の際に、幾度となく説明してきた「正式なOPENはまだ先なのですが…」「ここは改装してもっと変化していくのですが…」というセリフ。
ここ最近は、自分でも、このモヤモヤした状態が続くことが苦しくなってきていた。
長い間、会議を重ね、新たな図面を作成し、振り出しに戻っての繰り返し。
ようやく、ようやく作りたいものが見えてきた。
ようやく、ようやく伝えたかったことが形になってきた。
夢と現実は違ったけど、違ったからって諦めるわけじゃないから。
2021年11月16日。
ブックホテル神保町の支配人に就任し、初めてホテルを見学。
「ここで本当にブックホテルを作るの?」と思った。
それもそのはず。
元々、ここは全くコンセプトの違う別ホテルだったから。
イメージしていたような、本棚のスペースなどは少なく、内装等も含めて、「変えたい」ポイントがたくさんあった。
もちろんお部屋自体は、綺麗で機能的。女性に嬉しいアメニティも豊富だし、アクセスも申し分ない。
素敵なホテルには間違いないのだけれど、「ブックホテル」というには弱い、そんな印象だった。
それでも、プレオープン時には、予算の兼ね合いもあり、ほとんど何も改装せずそのまま使用するしかなかった。
つまり、建物などの「ハード」をいじらず、今ある空間を生かして、「ソフト」である、サービスやホスピタリティでカバーするしかない、というわけだ。
正直、やりたいことを全てやることは、難しいとすぐに判断できた。
「他のブックホテルと比べられてしまうだろうな」、とも。
でも。まだ何もやっていない状態で、諦めるわけにはいかない。
何事も、やってみないとわからない。
プレOPENまでの残された2週間。
ここを、「ブックホテル」に仕上げる、そんな私たちの挑戦が始まった。
お金や時間は有限。
限られたスペースや、限られたスタッフ。
たくさんの制約がある中、できることを、できる限りやった。
ブックホテルとして作られたわけではないこの場所を、
ブックホテルとして再び輝かせるために。
手探りだった。
がむしゃらだった。
本好きの私の、完璧主義が、止まらない。
そんなこんなで、2021年12月1日。
かなり無理矢理、ではあるが「完成」した。
うん、完成させた。
フロント周辺には、12月ということで、冬っぽく、恋愛特集を作ってみた。
それから少しずつ、試行錯誤しながらも運営。
初日こそ0名だったものの、徐々に口コミで広まっていき、本好きのお客さまが来てくださるように。
みなさん、「普段読まない本が置いてあって嬉しい!」「いろんな本がある!」と楽しんでくださった。
・・・。
それでも。本当は、
壁一面の本棚を作りたかった。入った瞬間に本の世界に飲み込まれるような、そんな異空間を味わってほしかった。
それでも。本当は、
お部屋以外でも、本について語ることのできる場所を作ってみたかった。
思い思いに本を読み、本を選び、そんな空間を演出したかった。
それでも。本当は、
1万冊以上。いや、もっともっと、本を置きたかった。本棚が足りない、場所がない、を言い訳になんか、したくなかった。
はっきり言う。
まだ、まだ本気出せてなかった、全然、伝えたいものが出しきれてなかった。
……。
時間がたりない
お金がたりない
スペースが足りない
スタッフが足りない
・・・。
いろんな言い訳をして、逃げていた。
そんなことは一番自分がわかってる。
でも、これが、その時できる精一杯だった。
みたくないものには蓋をして、みないようにしてしまうしかないのかなと思っていた。
この時ばかりは、OPEN準備の疲れもあり、「歩み」は止まりかけているように思えた。
わたしたちの転機。目指すべき方向が見えた冬。
お薦め本を取り揃え、たくさんのコメントを書き、バイトへの接客指導。
本について語ってもらえるよう、本好きスタッフを採用するように尽力した。
少しずつ、私たちはブックホテルらしくなってきた。
でも、
ずっと、
どこか自信がなかった。
そんな中、嬉しいことがあった。
「Twitterで、moonさんのつぶやきを読んできました」
なんと、私のTwitterのフォロワーさんが、プレOPENのツイートを見て、ホテルにきてくれたのだ。それも、何人も、何人も。
私が頑張っているところを応援したい、と言ってくれた。
嬉しかった、でも正直驚いた。
だから私は、せめてものお礼に、と積極的にフロントに立って、本をお薦めし続けた。
どんな本が好きなのか、読後にどんな気持ちを味わいたいのか。
お客様との対話は、楽しかった。
ある日、お薦めした本が「刺さった!」と言われる。
自分らしく生きている、という実感があった。
「あ、これかもしれない」
と思えた。
どっかーーんと何かが降ってくる音がした。
「これ、つかんだ」と。
早急に、バイトも社員もみんな招集して、会議を行う。
そこで出たアイディアが、
「ブックマッチングサービスの実施」だった。
「1冊の本との出会い」を生み出す。
事前アンケートをもとに、多くの人の悩みや目標に寄り添うような選書をする。
本を、まるで処方箋のように、お客様にご紹介する。
そんなサービス。
こんなホテル、聞いたことない。
唯一無二だと思えた。
進むべき方向を見つけた気がした。
そして、「本の街をあじわい尽くすホテル」という広い層にアプローチするコンセプトを変更。
情報が錯綜するこの時代に、一冊の本を通して、自分を見つめ直す時間を過ごしてほしい。
そんな願いを込め、「わたしの本を見つけるホテル」というコンセプトを打ち出した。
「ブックマッチングサービス」を中心に、私たちは本との出会いを生み出す場所として輝いていくことに決める。
爆速ライフ
もはや、敵は他のブックホテルではない。
この辺りから、私の無双っぷりが激しくなる。やりたいことをやるスピードが加速し出した。
これだ、と思ったものはなんでもやった。
有料にて「ブックカウンセリング」も実施。
支配人自ら、本のおすすめを語り、お悩み相談を受けた。
おかげさまで、ブックマッチングサービスも、ブックカウンセリングも大好評。
「今の自分に必要な本に出会えた」
「なかなか読まない本をお薦めしてもらって読書熱に火がついた」
そんなふうに、訪れてくれるお客様の「きっかけ」を提供できるようになっていった。
ピースがハマると、とんとん拍子で進むとはこのことで。
少しずつではあるけれど、メディア取材も増え、ついに日経新聞、そして読売新聞でも取り上げていただけるように。
これまで自信のなかった「内装」なんて、実際はあんまり関係なかった。
考え続けて、歩み続けたら、全く別の道で戦う、そんな選択肢が勝手に出てきていたから。
それでも夢を叶えたくてー。フロント変身計画、始動。
ホテルの稼働が伸び、おかげさまで満室の日が増え。
どんどん、前よりも「できること」が増えてきた。
そこで、私たちは新しい道に歩みを進めることに。
正直、できれば、丸々1棟リノベをしたい。(お部屋の中も、本が読める超快適にしたいし、廊下の本棚や絨毯、壁紙も変えたいし、色々、言い出したら、キリがない。)
けれど、無計画でできることではない。そんなことしたら、ホテルの運営自体、難しくなってしまう。
ということで、まずは、ホテルの目玉である「フロント機能」を大幅に変更することに。
特に、お客さまからもかなり要望の強かった
「待ち合わせできるスペースが欲しい」
「部屋以外に本が読める場所が欲しい」
という声には絶対答えたかった。
限られたスペースを生み出すために、私たちがとった施策は、
「スタッフの過ごす、事務所のスペースを半分以上削減すること」だった。
正直、葛藤もあった。顔で「マジですか」と伝えてくるスタッフもいた。
それでも、フロントをゆったりできる空間にできたら、スタッフだって、そこで一緒に読書ができるという確信があった。
お客様も、スタッフも、みんなが、快適な場所を作りたかった。
きっと、完成したら今よりもっと楽しく働ける。
そう伝えて、理解してもらうことができた。
そこからは、もっぱら図面と睨めっこ。
今ある機能を存分に使って、リニューアル空間を楽しんでもらえるように考えに考えを重ねる。
アイディアがとまらなすぎてるけど、それすらも楽しい
そんな中、途中で急遽登場したアイディア。
それは、「BAR」を作ろう、と言うものだった。
この会社、私もだけど、代表を含めて、全体的にみんな「新しいことへの挑戦意欲」がすごい。立ち止まる、と言うことを知らない。
「BAR運営」
正直、本当にうまくいくのか、という不安が頭をかすった。
けれど。
そんなの、面白いに決まってる。
かねてより、「飲食できる場所が欲しい」とは言われていた。
もちろん、いつかは、と私たちも検討していた。確かに、ここ神保町には、夜にはしまってしまうお店が多い。
しかも、本を読んでいたら、なかなか外に出るのが億劫になることもあるだろう。
洗練された空間で、バーでしっぽりと飲みながら、読書。
隣の方と、おすすめの本について語り合ったり。
もちろん。ホテル以外の方ともつながったり。
そんなの、やってみたい、やるしかなかった。
「飲食機能」をつけるためには、関係各所との調整が必要。
そして、もちろん資格の取得だって。
ということで、本当は春にはグランドOPENしたかったし、春が無理なら夏、と思っていたんだけど、各所の調整や工事の図面変更など、この期間がとてつもなく、長く長くかかってしまった。
気がついたら、プレオープンの12月から季節が巡り。
8月末頃から、ようやく工事がスタートした。
BOOK HOTEL 神保町 第2章へ
工事期間中。
私たちの都合でご迷惑をお掛けしているのにも関わらず、お客様はすごくあたたかかった。
「工事していて迷惑です」
なんていう方は、誰もいなかった。
いや、心の中では思わせてしまっていただろうけど、みなさま穏やかな表情で私たちのこの挑戦を見守っていてくれているように思った。
2022年9月末。ようやく。工事が終わる。
これから、私たちは本を設置したり、新しいバーのオペレーションを考えたり。ホームページも新しくしたいし、宣伝も頑張りたい。
ひっきりなしにTODOリストが降ってくるだろう。
正直、準備万端かと言われれば、そんなことはない。
私たちはいつだって手探りで、進んでいる。
やってみて、考える。お客様にヒントをもらいながら、考える。
でも、いい。
それで、いいと思うから。
それがいいと、思うから。
考えるよりも先に、進んでいたい。
歩き続けることでマイナスなんて何もないから。
正直、私にとって、2022年は波瀾万丈だった。
これまで、ゆるりゆるりと生きてきた時間が
ぎゅっと凝縮されたような濃密でスピーディーな毎日だった。
地図もないし
正解もない。
何も、わからない日々の中で、頭が狂いそうになった。
だから、本を読んだ。
だから、人に会った。
それでも答えが出ない時は、感覚に頼った。
自分を、スタッフを、信じて進んできた。
チャンスがあれば、どんなことでも乗っかってきた。
それはそれは、失敗することも多かったけど、それすらも糧にしてきた。
これから、どんな景色が広がっているのか。
どんな景色を見ることができるのか。
わからない。
フロントが新しくなったからって、全ての夢が叶うわけじゃないし、
これでお客様に絶対に喜んでもらえるかどうかだってわからない。
わからない。
でも、わからないってめちゃくちゃおもろいなと思う。可能性しか感じない。
ここから始まる物語、
私はここで何を感じ、何を思うのか。
楽しみで、仕方ない。
BOOK HOTEL 神保町の第2章は、
もうすぐ開幕する。
いつだってバタバタの私だけど、
そんな自分をいたわりつつも、やっぱりこれからも爆速で。
諦めずに、進もうと思う。
スタッフと共に
お客様と共に
歩んでいきたいと思う。
***
2022年10月半ば、
新フロントにおいて
装い新たにお客様をお迎えいたします。
フロントは夜はBARに生まれ変わる予定です。
最新情報はTwitterやnoteにてお知らせします。
私たちの冒険をどうか見守っていただければ幸いです。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
歩みを、とめない!
moon(BOOK HOTEL 神保町 支配人 三浦菜月)
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